雪形・ゆきがた

我が家は水道管の破裂も無く掃除の必要もないくらい綺麗だった。

家の中を一巡りしてお隣に挨拶に向かう途中玄関から出ると、西の山に春を告げる雪形が出ていた。

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種まき兎。

昔からこの雪形は種を蒔く合図なのだ、農作業を始める季節ですよと教えてくれるのだ。

どんなに雪が多くても寒い日が続いてもこの雪形が必ず来る春を教えてくれる。

ここは福島県福島市世界一有名な街、我が家はここにある。

 

思いのほか家の中が綺麗だったので、近所のパーマ屋さんに髪を切りに出掛けた。

行ってみると中がリニューアルされて、担当も初めてのスタッフさんだった。

いつも世間話をしながら髪を切るけれど、スタッフさんの話になった。

「子供が保育所に行ってるんだ。もう1人産もうか考え中。どうしようかと思って。」

「そうだね、考えちゃうね。」

「みんなも大丈夫って言うし、たぶん大丈夫だと思うんだよね。でも不安、このままここに居ても良いのかも考えちゃう。」

スタッフさんと話しながら心の中で呟いていた、兄弟を産んであげなよ、きっと大丈夫だから。

けれどその言葉が口から出ることは無かった。そんなに簡単に言えない。

本当に大丈夫?大丈夫なの?この不安を福島県民はみんな抱えて暮らしている。

避難しなかった人は子供に酷い事をしているんじゃないだろうか、10年後20年後に子供は病気になってしまうんじゃないだろうか、と。

避難した人は福島を捨てたんじゃないだろうか、みんなに悪い事をしたんじゃないんだろうか、と。

自分に問い、まわりに問い、答えを見つけられず、心の中に晴れないもやもやを抱えて暮らしている。

けれどみんなそんな思いを抱えたまま明日を目指しているのだ。

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震災後伐採されたネクタリン畑と小さくなった桃畑、桃の花は満開だった。

隣は農家、丹精込め美味しい桃を作っていた。東京にも出荷していたがその桃の木はもう少ししかない。

出荷の際市場の人から聞かれたらしいのだ、本当に大丈夫って。

結論から言えば「そんなの分かりません、こちらが聞きたいぐらい。」なのだ。

今迄は自信を持って出荷していた、美味しくて安全な間違いのない物をと頑張って作ってきた。

でももう分からない、だからそれでも良いと言う人にだけ自宅で売っている。

現在農産物から放射能はほとんど検出されていない、まれに検出されたものは処分されている。

日本全国くまなく調べたら福島より放射能の高い所があるかもしれない。そこから農産物が出荷されているかもしれない。

けれど福島産は区別されているらしい。

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我が家の庭にはアスパラが出ていた、美味しく食べてきた。

 

今おとうさんと2人、東京に住んでいるのは避難している訳では無い、仕事の都合だ。

そして来春にはまた我が家に帰る予定。

どんなにもやもやを抱えていても、我が家は良いもの帰るべき故郷なのだ。