白鳥の渡り
結婚した頃住んでいた町の湖には、冬になると沢山の白鳥が来ていた。
昔は鳥インフルエンザなんて無かったからパンの耳をあげたりして、町を揚げて餌付けをしていた。
雪が降って寒い中2人の子供たちを連れて見に行ったりもしていた。
春になると白鳥は北の国に帰っていく。
白鳥が帰る朝、まだ夜も開ける前、布団の中でウトウトしていると声が聞こえてくる。
住んでいる家の上を飛んで行く白鳥の声、コーウコーウと鳴き合わせる声が。
その声は北へと消えていく。
白鳥たちのいる湖の北には大きくて高い山がある、布団の中でその声を聞いているとあの山を越えていくよと言う合図に聞こえるのだ。
そしておとうさんに「白鳥さん今日、家に帰ったね」と言ったものだ。それは春の始まりでもあるのだけれど。
今年の冬もきっと沢山の白鳥が来ていることだろう。
その町を離れ白鳥を見ることが無くなってもあの鳴き声は忘れることは無い。