大きな犬

娘たちが中学1年生と3年生だった時のこと。

ある日の夕方学校から「娘さんが学校で犬に噛まれました、急いで来てください。」と電話が来た。

ところが電話をしてきた先生が慌てていて、噛まれたのが誰なのかはっきりしない。

でも救急車で運ばれた訳では無いから大丈夫かなと呑気に考えながら学校に向かった。

学校に着くと来客用の昇降口に上の子が待っていた、大変だよ犬に噛まれたんだよと言う。この時、噛まれたのは下の子なんだなと気付く。

保健室にいるからねと教えられそこに向かうと下の子が顔を出している、何だ大丈夫じゃないのと思ったが、先生方は右往左往して大騒ぎだ。

保健室の先生には念の為に病院へ行くようにと言われた。

大騒ぎの学校から離れるためにそのまま子供を車に乗せ病院へ向かったが、その車の中で事の様子を聞き出した。

下の子の話によると、部活で学校の外周を走っていると遠くに犬が人形で遊んでいるのが見えたと言う。

もっと近づいたらそれは人だと分かった、死んでる?一瞬そう思ったらしい。

もっと近づいたら泣き声が聞こえてきた。子供だ、小さな女の子が犬に噛まれている。

そこからは猛スピード、子供に噛みつき興奮している犬の眉間に一発パンチ、驚いて子供を離した隙に手だか足だかを引っ張って助け出す。

すると興奮している犬は敵だと思ったのか今度は娘に攻撃、手や足を噛まれてしまったらしい。

まあその怪我は大したことは無く、病院もすんなり終わって家に帰って、ここが1番酷いんだよねと言う怪我を見せられて始めてびっくりした。

太ももに酷い犬の口痕が付いている。

その日はたまたま、ハーフパンツを履きその上に長体操ズボンを履いて走っていた、2枚重ねのズボンの上から噛まれてこの傷だ、しかも母に似て立派な太もも、細身の子供だった喰いちぎられていたに違いない。

あいつは本気だったよ、と娘は言ったがこの傷が犬の本気を語っていた。

助け出された女の子は1歳半ぐらいだろうか、背中側の首の付け根を噛まれていた、動物は本能的に喉元を噛む習性がある、喉元を噛まれていたら死んでいたかもしれない。

その格闘の様子を見ていた部活の仲間はあまりの惨状に娘の足はもげ手は使えなくなってもう学校には来れ無いかも、という大げさな噂が流れていたようだったけれど。

犬に噛まれた傷は治った、でも大きな犬が苦手なのは暫く続いていた。

あの小さな女の子も今でも犬が怖いんじゃないだろうか。